お茶づくりのこれまでの当たり前と、これからの当たり前

2020年新型コロナウイルスによって世界は大きく変わってしまいました。当たり前に思っていた常識や今まで慣習で必要だと思われていたものがどうやらそうでもなかったという事実も判明しました。

満員電車に揺られて毎日1、2時間かけての出勤。数十分の為だけに飛行機に乗って行く打ち合わせ。ただなんとなくやっていた習慣の数々。この1年間目まぐるしく人々の価値観や生活スタイルが否応なく変化を迫られてきました。

そんな中で、「お茶作りのこれまでの当たり前とはなんなのか。」そして、「これからのお茶作りの当たり前、スタンダードはどうなっていくのか」と考える時間がいつもに増して増えました。

例えば、日本のいわゆる高級なお肉は脂がふんだんに入ったサシ入りのお肉のことをさします。海外ではむしろこのようなお肉は食べられないのだそうです。しかしながら日本では誰しもがサシが入ったお肉を見て、素晴らしい見た目で口でとろけそうな高級なお肉だ、と思っています。事実お値段も赤身のお肉と比べると高価です。果たして口でとろけるお肉だなんてお肉なのでしょうか?その牛はおそらくブヨブヨではないでしょうか。

実は私は京都の茶舗で働いていた時から高級茶と言われるお茶の旨味の正体がずっと気になっていました。入社して初めて飲ましていただいた10g 1,000円のお茶の味が衝撃的にびっくりしてしまいました。それはもはやお茶ではなく出汁に近い味わいや余韻でした。おそらく最高級の玉露や煎茶を飲まれた方は同じ体験をされているのではないでしょうか。

私はそれからというものこの正体がお茶農家さんで修行するまでわかりませんでした。そしてある時、この出汁の正体を見つけました。
それは硫安(硫酸アンモニウム)をはじめとする肥料でした。

畑には必ず必要な3大要素というものがあり窒素、リン酸、カリと言われていますが、お茶の旨味を出すためには窒素成分がとても重要になります。

それがまさしく化学肥料の硫安でした。つまり硫安を使えば使うほどお茶の旨味が増え、まったりとしたお茶になります。地方に行けばお茶に味の素(旨味成分)を入れていることも多々あります。これは畑の時に硫安を入れるか、製品になった後に味の素を入れるかだけの違いです。

旨味が強いお茶がなぜ値段が高いのか。これも京都でお茶の販売をしていた時に私がずっと疑問に思っていたことです。理由は単純でした。つまり旨味の強いお茶を作るためには肥料代、それに伴う農薬代、そして作業代(人件費)、特にかぶせという手法を使うのでその手間によるコストも上乗せされています。(かぶせについては後ほど説明します)


普通の消費者だと値段が高いほど良いものだと思ってしまいます。
確かに手間暇をかけて人為的に物凄い衝撃を与えるお茶を作るという意味では良いものなのかもしれません。ただ誰が果たしてこの旨味のあるお茶を本当に欲しているのでしょうか?そして旨味のあるお茶を作るために大地がそして生産者や飲み手の健康が犠牲になっています。(もちろん肥料屋さん、農薬屋さん、お茶資材メーカーは喜んでいますが、、。)

以上のことを冷静に考えてみるとこれまでの当たり前のお茶作りは果たして誰が喜ぶお茶なのだろうと思ってしまいます。

旨味があるお茶を作るために、
化学肥料を沢山使う→それに伴い虫や病気が多発する環境を作る→農薬で防除する→益虫(害虫を食べる虫)や土中にいる微生物共も死んでしまう→また虫が大量発生する
という負のスパイラルを描いてしまっています。

このような背景を自ら生産者となり、知ってしまった私はこれまでの当たり前のお茶作りとはなんなのかと問い続けていました。そしてこれからの当たり前のお茶作りとはなんなのか、独立して5年間考え続けていました。

まだ答えには至っていないのですが、
これからのTEA FACTORY GENが考える当たり前とは「自然な形のお茶作り」だと思っています。

お茶の木に喜んでもらい、根を張る大地に喜んでもらい、そして生産者が極力人工的なことをせずに、その土地の特徴が一番よく出るスタイルのユニークなお茶を作り、そして飲む人が素直に喜べるお茶作りです。

まず、化学肥料と農薬を使わなくて良い環境を作る。そして最終的には有機肥料も使わずともお茶が作れる環境を作る。味は必ずその環境が良くなるにつれついて来ると思っています。

今までが足算のお茶作りであったのに対して、これからは引き算のお茶作りが重要です。なぜなら、化学肥料を足せば足すほど、環境負荷がかかり、味や香りもどの産地で作ったものでも同じになってしまいます。意識せずに飲めばほぼ同じと言えると思います。(もちろんお茶を生業とする私たちは微妙な違いであってもわかりますが、、。)

それに対して引き算をすることととは肥料をへらし、農薬を減らすことでその土地そのものの味が強調され、持続的で自然なお茶作りが可能になります。
これこそがウィズコロナである2021年からのお茶作りのスタンダードになるのではないでしょうか。

「安心・安全なお茶作り」をコンセプトにされているお茶屋さんや農家さんもまだまだ沢山います。では、そもそもお茶作りとはそんなに危険で安心できない、安全ではないものだったのでしょうか。

この言葉が無くなる日を夢見て私たちはこれからの当たり前なお茶作りに励んでいきます。